すべては選択可能

パセージの実践の失敗を重ねていた約一週間に終止符が打てたのは、
珍しく外出先で長男が機嫌を損ねたときの出来事がきっかけだった。
私は他人の目があると、とても冷静になれるので
家の中では自分に甘く陰性感情という劇薬を使うけれど
外では使わないことができるようだ。
ならばきっと家の中でも使わないことを選べるはずだ。

ちなみに家での失敗とは主に・・・
長男がご飯を食べようとしない。
長男がお風呂に入ろうとしない。
長男が寝ようとしない。
という私の予定と違うことを長男がするときに、
いい加減にいうことをきいて!と怒ったというものだった。
恐ろしいことに、一度怒ると、
怒ることに慣れてしまった。
怒ると長男と仲が悪くなってしまうのに、
仲が悪くなることへの危機感が薄れてしまい、繰り返していた。
私の行動の目的は、
長男がご飯を食べてお風呂に入って早く寝ることで、早く風邪を治せるように
というもので、協力的なものだけれど、対処行動が間違っているのだ。
いつ、どれだけご飯を食べるか、
いつお風呂に入っていつ寝るのか、
それは彼の課題だからだ。
頼もしいことに我が息子は、
「いい加減にお風呂に入りなさいよ!」と怒るオニママの私に対して、
果敢にも「お風呂に入るのはぼくの問題だ!」と返事した。
はい、まったくその通りでございます・・・
(その後私は「そうですか!」と言い捨てて次男と2人で眠った。
 長男は1人で歯磨きをしてパジャマを着て、ぬいぐるみを抱えて、
 1人で別室に行って眠った。
 私がうるさく言わなくたって自分1人で全部できるんですね・・・。)
 
5歳児といえども、息子は他人。
彼がお風呂に入りたくなければ入らせることはできない。
私のお願いを彼にきいてもらいたいのならば、
まずは彼との仲が良くなければ何もはじまらない。
それなのに私が彼を怒っていると、彼と権力争いが始まってしまって、
もっと些細な、彼にとってはなんの意味もないことまでが、
私の言うことをきかないための道具になってしまう。
そしてその状態が続けば続くほど、
仲良くなるためにはより努力を要するようになるのだ。

こうして書いてみると、実際に失敗をしてみないと学べないものだなと思う。
パセージの理屈がわかってからの自覚的な失敗は、
自分を責める(そして現実から逃げる)材料にするのではなくて
どうすれば良い関係が築けるのかという学びに変えたい。
遅々とした歩みでも、進んでいける自分を認めたい。



外出先でのエピソードは、小児科が舞台だった。
その日は私が幼稚園で交通指導の当番だったので、
長男を園に迎えに行って、図書館に寄って絵本を借りて、
それからインフルエンザの予防接種を受けに行った。
待合室では長男は早速借りてきた絵本を自分で読み、
それから私と一緒にまた別の絵本を読んで、
ご機嫌で過ごしていたように見えた。
ところが診察室に呼ばれた瞬間、「え!やだ!」と長男は言い、
診察室に入ろうとしない。
ここ数年長男は注射を嫌がったことはないのに、珍しかった。
私は「他の患者さんも待っているから早く入ろう」と言ったが、
「今日は注射いやなの!」と息子は入ろうとしない。
私は次男をだっこしていたので、長男を診察室に連れて行くのに手間取っていると、
看護師さんはさすがプロ、長男を素早くだっこして椅子に座り、手早く診察。
注射を打つときも、
長男は「いやだー!絶っ対にしない!!」と暴れてかなり頑張っていたが、
先生も看護師さんもさすが百戦錬磨のプロ、3人がかりで
「そうか嫌か〜。でもすぐだよ!がんばれ!」と素早く注射を打ってしまった。
長男は自分の抵抗が無駄であったことで、かなり自信を喪失したように見受けられた。

待合室に戻ってから長男は、私を叩いたり蹴ったりし始めた。
私に暴力をふるうことはここ数年なかったので、珍しかった。
やめてちょうだいと言ったけれど、長男は私を叩き続ける。
たまたま手が次男に当たって、次男が泣き、
私が陰性感情を表に出して「しゅんすけに当たったよ。やめてちょうだい」と言うと
長男は叩くのをやめて蹴るだけになった。
私が黙っていると、
次は私のカバンを投げたり図書館の本の入った自分のカバンを投げたり始めた。
私「こうすけ、図書館の本はみんなのものだから投げないで大切にしてちょうだい。
  ここは病院だから、具合の悪い人もいるでしょ。迷惑になることしちゃだめです。
  床の物を拾ってちょうだい。」
長男「いやだ。踏む!」
私 「図書館の本大事にできないんだったら、これから返しに行こう。」
長男「いやだ。踏んで、返さない!」
私 「困るわ・・・。人の迷惑になることしたらだめだよ。」
長男「いやだ。困らせる!」
私 「・・・。」
そしてまた長男は私を蹴り始めた。
看護師さんが次の予防注射の予約の打ち合わせに来られて、
長男に「こうちゃん、お母ちゃん蹴ったらだめだよ。お母ちゃん大事でしょう?」
としばらく話してくれたのだが、長男は「蹴る!」と続けていた。
看護師さん「お母ちゃん蹴っちゃだめだよ。お母ちゃん好きでしょう?」
長男 「・・・嫌い!・・・いや、ちょっとだけ好き!」
    ちょっと笑ってしまった。私は長男の頭をなでた。
看護師さん「こうちゃんがこんな感じって珍しいですよね。おうちではどうですか?」
私 「そうなんです、ほぼ初めてですね。」
看護師さん「お母さん戸惑ってらっしゃいますね(笑)」
私 「あ、今日、幼稚園の旗振り当番で、お迎えに行くのが遅かったんですよ。
   1人で待っていたのが嫌だったのかもしれないですね。
   それで先生にもさようならって言わなかったのかな?」
長男「うん、そうだよ嫌だったんだよ」
看護師さん「そうだったんだ〜。嫌なこといっぱいがまんしたんだね。」
(母子共に、この小児科の皆さまには本当にお世話になっています。ありがたいです。)

しばらくして長男は私を蹴るのはやめて、私の上着を床に落とした。
そして「お母さん、本の続き読んで」と言った。私はほっとした。
「いいけど、お母さんと仲良くできる?」と聞くと、「できる」と言ってくれた。
「それじゃあ、上着拾ってくれる?」「・・・はーい」
それから絵本の続きを楽しく読んで、会計も済み、さあ帰ろうとなったのだが
案の定長男は「いやだ帰らない!」
・・・困る私。
私 「帰ろうよ。」
長男「この本全部読んでから!」
私 「うーん・・・残りけっこう長いからなあ・・・。じゃあ、あと2ページ読んで帰ろうか。」
長男「いいよ、2ページ読んで!」
読み終わると、長男「スリッパここに置いとくの!」
私 「ここにスリッパ置いといたら他の人が困るから片付けよう。」
長男「いやだ!絶対置いとく!」
私 「困るわ・・・」とつぶやいて長男を置いて下駄箱に向かった。
長男「お母さん!置いてかないでー!」
   周りの人が一斉にこちらを見る
私 「ここにいるよ。」
   長男はスリッパを脱いで椅子の下に置いて下駄箱に来て、
   自分のカバンを全部床に投げ捨てた。
   私はスリッパを取りに戻って下駄箱に片付けた。
長男「だめ!スリッパはあそこに置いとくの!」
   別のスリッパを椅子のところに置いてまた戻ってきた。
私 「・・・どうしたらいいのかなあ・・・」
長男「スリッパあのままにしとくの!」
私 「でもあそこにスリッパがあったら、他の人が踏んで滑っちゃうかもしれないし、
   誰かが片付けなくちゃいけないでしょ。他の人が困るよ。」
長男「困らしとくの!」
私 「他の人を困らせることはしたらいけないよ。それは人としていけないことだよ。」
長男「でもぼく嫌な気持ちなんだもん!」
私 「そうだね、あなたが嫌だったのはわかる。
   でも、だからって人を困らせるのはいけないことです。」
長男「・・・。じゃあぼくこのままスリッパ取りに行く」
私 「あ、ほんと、ありがとう。」
長男「このまんまだよ?」
   彼は土足のまま上がろうとしていた。
私 「あーそれはいけないわ。
   ・・・ほんとにこうすけって、何がいけないことかよく知ってるんだね!」 

   長男は、はっという顔をした。私は急に、陰性感情が消えた。
私 「ってことは、何がいいことなのかもよくわかってるってことだ。」
長男「・・・わかってないもーん。」
私 「このままじゃいつまでも帰れないんだけど、どうしたらいいのかなあ・・・」
長男「じゃあ、ぼくが取ってくるから、お母さん片付けて!」
私 「うんわかった、そうしよう!」
長男「よーし!」
   靴を脱いで小走りでスリッパを取りに行き、私に渡してくれた。
私 「ありがとう。」
長男「あれ、ここじゃないのに・・・」
   子供用スリッパの置き場所に、大人用スリッパが置いてあるのを見つけて、
   長男は正しい場所に戻した。
私 「わあ、ありがとう!よく気がついたね〜。みんな助かるわ。」
長男「そう?ふふふ・・・あ、ぼく図書館の本、カバンに入れとこ〜」

帰り道はとても楽しく仲良く歩いて帰った。
夕焼けがきれいだね、鳥が飛んでるね、あれはとんびかな?
風が冷たいね、暗くなるのが早いね〜
あのね、ぼくほんとはお母さん大好きなんだよ〜
長男はさっきまでとは別人のように、かわいい子どもになることを選んでくれた。
長男と一緒におしゃべりするのはこんなに楽しくて幸せなのに、
どうして今まで数日、私は彼を些細なことで怒ってばかりいたんだろうって思った。
病院では怒らないでいれたのに・・・

この日までの数日間の私の彼への対応のまずさが、
彼に不適切な行動をとらせたのだと思った。
長男はよくわかっているから。
一番良くないことは、共同体への破壊行為だということを。
お風呂だとかご飯だとかは、彼の課題で好きなようにすればいいけれど、
図書館の本や病院の待合室やスリッパは、共同体のものだ。
それを自分の好きなように使ってはいけないことを、彼はきちんとわかっていた。
私を怒らせるために、その最も不適切な行動をしてみせたのだ。
それがわかっているのなら、私に言う言葉は何も無い。
私を怒らせようとする彼との関係を、良いものに変えるしか道は無い。

病院の下駄箱では、スリッパぐらい放っておいて帰ろうかと、ちらっと思った。
時々片付け忘れている人だっているし、大した迷惑ではないし。
だけど共同体への破壊行為だと思ってやっている長男の前で、
ここで私がスリッパを放っておくと、彼の共同体感覚が狂ってしまうと思った。
もっと言うと、
私よりも彼の方が正しい共同体感覚を持っているのではないかとさえ思えた。
こんなに賢い子が、不適切な行動をするなんて・・・
明らかに私がそうさせているとしか考えられない。
(・・・ああやっぱり未だに、私は勇気がくじかれているようです)

この日の夜、長男が
「お母さん、今日怒らなかったね。ぼくすごくうれしかったよ。」
と言った。


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by Inahoadler | 2015-12-05 23:27
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