男のプライド

息子の通っている幼稚園では、子どもたちにたくさんの遊びを体験させてくれる。
夏休み前には、木の板で船を作ってプールに浮かべていた。
船にする板はB5サイズぐらいで、本物の金槌を使い、
小さな木ぎれをクギで打ち付けて好きな模様や形を作るのだ。
初めは説明を聞いただけで怖がって泣いてしまう子や、
指を叩いてしまって泣き出す子などもいたそうだけど、
板には紙ヤスリをかけて、クギを打つ練習もして、
時間をかけて思い思いの船を、全員が完成させたという。

ある日息子が、急に「ぼく今日クギ打てたよ!」と言い、
私 「え?!本物の金槌で?」
息子「(誇らしそうに)そうだよ!本物の金槌だよ!」
私 「えーすごい!!お母さんは上手にできないんだ、すごいねえ!」
息子「すごいでしょー、ぼく上手にできるんだよ!」
私 「でも難しいでしょ?どうしてクギ打ってるの?」
息子「え?難しくないよ。全然簡単だも〜ん。
   あのね、お船作ってるんだよ、できたらプールに浮かべるの!」
私 「お船?木で作ってるの?すごいなあ・・・。プールに浮かべるのいいねえ!」
息子「お母さんにも見せてあげるね、ぼくのお船すごいんだよー」
それからは毎日「ぼく今日も上手にクギ打てたよ!」と話してくれたので、
私は息子のことを器用な子だなあと思っていたのだけれど・・・

面談のときに担任の先生の話を聞くと、実は少し違うことを知った。
先生「こうちゃん、すっごい頑張りやさんなんですよ。
   木の船を作るときも、お友達がどんどんクギを打てるようになっていっても、
   こうちゃんはなかなかうまくできなくて、4日目ぐらいに初めて打てるようになったんです。
   珍しく涙目になったりしてたんですけどね、
   朝早く来た日なんか、始まるまでの1時間、ずっとクギ打ってたんですよ!
   その間、お友達が遊ぼって言ってきても、『ぼく今忙しいから』って断ってました(笑)」
私 「そうだったんですか?!
   私には、『ぼくクギ上手に打てるんだよ!』としか言ってくれなくて、
   そんな苦労してたなんて知りませんでした。」
先生「いや〜かなり苦労してましたよ。できるようになるまで、悔しそうでした」
私 「そうだったんですか。頑張ったんですね〜」
先生「ほんと頑張りやさんですね。
   でもこうやって、ちょっと難しいことに挑戦するのが
   子どもにとってはすごく成長になるんだと思います。」
私 「そうやって壁にぶち当たるのはいい経験ですね。」
先生「ねえ、こうちゃんには、もういろんな壁に
   どんどんぶち当たってもらえたらって思ってるんですよ。
   すごく伸びてくれると思います。」
先生は息子の集中力と負けず嫌いさを、いいところだと思ってくださっているようで
それがとてもありがたく、嬉しくて
なんだか体育会系の先生と、息子の試練について意気投合してしまったのだった。



運動会では、鉄棒の前回りをしてからケンケンパ(片足跳び)をするという種目があった。
運動会の練習をしていたある日、息子が「ぼく前回り上手にできるんだよ!」と言った。
私 「すごいねえ!こうすけ前回りできるんだ!」
息子「そうだよ、くる〜んって上手にできるんだよ!」
   幼稚園からのお便りには、先生の手助けの要る子や、
   台を置いて回る子もいますと書いてあったので
私 「台を置いたり、先生に手伝ってもらう子もいるんでしょ?」
息子「うん、そういう子もいるけど、ぼくはひとりでできるんだ!」
私 「そうなんだ、すごいな〜。お母さんは鉄棒上手じゃなかったんだよ。」
息子「そういう子もいるよ。
   大丈夫大丈夫、でも練習したらお母さんも上手になるよ。」
私 「ほんと、ありがとう(笑)」
それからは毎日「ぼく今日も前回り上手にできたよ!」と話してくれたので、
私は息子のことを運動が得意な子なんだなあと思っていたのだけれど・・・

運動会が終わったある日、先生と話すとやはり事実は少し違うことがわかった。
先生「こうちゃん、鉄棒すごく頑張ってましたよ。」
私 「運動会でちょっとハラハラしたんですけど、回れてましたね。」
先生「こうちゃんね、初めはなかなかうまくできなかったんですけど、
   すごく練習してできるようになったんですよ。」
私 「あれ?そうなんですか、私には『ぼく上手にできるんだよ』としか言ってくれなくて」
先生「いや〜苦労してましたよ(笑)」
私 「ほんとですか(笑)台使う子とかもいるんだよねって聞いても、
   『うん、でもぼくは使わないけどね』って」
先生「いやいや、こうちゃんもたくさん台使って練習してました(笑)」
私 「・・・私にはできてからじゃないと言ってくれないんですね」
先生「そうなんですね(笑)でもほんと、頑張りやさんですよこうちゃんは!」
まさかの釘打ちと同じ展開に・・・。
息子はかなりプライドが高いようだ。



でも、失敗しても上手にできなくても、私は彼の頑張りを素敵だと思うのだけれど
彼はそういうことを私に言って、勇気をくじかれたことがあったのかな・・・。
息子がもしも、私にできないことを言えないのだったら困ったなあと思っていた。


すると後日
息子が「お母さん、今日ぼく竹馬したんだけど、上手にできなかったわ〜」と言った。
私 「へえー、竹馬したんだ!すごいねえ!」
息子「うん、でも竹馬難しくてぼく歩けなかったの」
私 「そうなんだ、竹馬は難しいもんね。でも乗れたのすごいねえ」
息子「そう?ちょっとだけだけどね」
私 「こうすけは練習したらすぐに上手にできるようになるよ。
   竹馬、ムーミンたちも乗ってたよね。
   ほら、みんな練習してたやん『ムーミン谷の彗星』で」
息子「ほんとだ、ムーミンたちも練習してた!スナフキンだけが上手だったんだよね。   
   スナフキンすごいねえ!」
私 「うん、スナフキンすごいねえ。でもみんなも上手に歩けるようになってたよね〜」
息子「うん、スニフも上手になってた!」


釘打ちや前回りができるようになった話をしてもらったときも
もちろん嬉しかったのだけれど、
それ以上に、竹馬ができなかった話をしてもらえて、私はものすごく嬉しかった。
段々と私のことを、もっと仲間だと思ってもらえるようになったのかなと思っている。


息子のプライドは相当に高いらしい。
だからこそ、失敗をばねにして何度も練習するのだ。
そこで諦めたり言い訳したりせずに挑戦できるのは、彼に勇気があるからだろう。
彼とうまくいかないときや、ものすごく彼が攻撃的になるときは、
きっと私が彼のプライドを傷つけてしまっているのだろう。
子どもには色と金が無い、あるのは面子だけだと聞いた。
だから絶対に面子をつぶしてはいけないのだと。
加えてうちの子どもは男だ。
男のプライドは、女の私には計り知れないものがある。
このプライドも息子の宝物だ。大切にしなければ。

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by Inahoadler | 2015-10-24 01:05
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