変身願望

お友達のKくんと遊んだ日の夕方、
「あ〜あ、ぼくKくんだったら良かったのにな〜」
と息子が言った。

瞬間的に陰性感情がこみ上げてきた私。
一生懸命向き合ってるのになんで?何が不満なのよ?と、
怒りじゃなくて裏には悲しさがあったと思う。
でも、息子は何気なく言った様子だし、息子に陰性感情はない。
なぜそんなことを言うのか気になるので、ここで陰性感情を使わないことが肝心だ。
そこで努めて冷静に聞いてみた。

私 「どうしてKくんだったら良かったの?」
息子「だってね、Kくんは字書けるんだよ!いいなあ〜」
私の押し殺した陰性感情には気づかず、息子は楽しそうに答えた。
しかしなんて無邪気な答えでしょう!
まったく、ひとりで怒ったり悲しんだり、馬鹿げていますね。

私 「そうだったね、Kくん上手に書いてたねえ」
息子「うん、かっこいいよね!・・・あ、ぼくも書こうっと!」
それから彼は、「スプトラケトロプ」とか「グンロンアグ」とか書いた紙を誇らしげに持ってきた。
息子「見て!」
私 「?・・・あ!プロトケラトプスとグアンロングだね!!」
息子「そうだよ♪すごいでしょ〜ぼく書けたよ!」
   わかった私もすごいでしょと思いながら・・・(笑)
私 「すごいねえ♪・・・でも普通はね、字は左から右に向かって書くんだよ。」
息子「あ、そっかそっか」
(この後数日間、彼は紙に恐竜の名前を書きまくったので、
 なんと大抵のカタカナが書けるようになった。
 恐竜への熱は彼のあらゆる能力を伸ばすらしい・・・素晴らしい。
 しかし彼はひらがなを書くつもりはまったく無いらしい。やむを得まい・・・)



またある日、掃除をしておやつを食べ終わったときに
「あ〜あ、ぼくチョウチョだったら良かったのにな〜」
と息子が言った。
また瞬間的に陰性感情がこみ上げる私。
家を居心地よく整えておやつも用意して、
人間として幸せな生活を準備しているのに、
虫になりたいだって?
・・・でもここで陰性感情を抱くのは私の方が大人げないと、さすがにわかった。
でもなぜそんなことを言うのか気になるので、冷静に聞いてみた。
私 「どうしてチョウチョだったら良かったの?」
息子「だって、お空が飛べるんだよ!いいなあ〜」
やはり他愛もない理由だった。
いったい何の劣等感を刺激されたのだろうか。まったく馬鹿げたことだ。



またある日、昆虫の図鑑を見ながら
「あ〜あ、ぼくカブトムシだったら良かったのにな〜」
と息子が言った。
驚くべき事に、陰性感情がこみ上げてくる私。
なんで虫になりたいんだ?
虫みたいに産みっぱなしじゃなくてこっちは一生懸命育ててるというのに、
私の何がいけないの?
私の劣等感は飛躍しすぎているとは思うが、
やはり私は息子が虫になりたいというのは許せないようだ。
だから理由を聞いてみた。
私 「どうしてカブトムシだったら良かったの?」
息子「だって、カブトムシって強いんだよ!」
ああそうか、彼は強くなりたいのか。
自分の生育環境がどうとか、そんなことを考えているわけではないんだね、
当たり前だろうけど。



またある日、動物のテレビを見た後で
「あ〜あ、ぼくライオンだったら良かったのにな〜」
と息子が言った。
この日、ようやく私は陰性感情を持たずに話を聞くことができた。
ライオンになりたい理由はわかるけど、聞いて欲しそうにしていたので聞いてみた。
私 「へえ〜どうして?」
息子「だって、ライオンって強いんだよ!」
私 「そうだね、ライオンは強いね〜」
息子「ぼくも強くなりたいな〜」



私は数回目にしてやっとこのパターンに慣れた。
息子は自分より優れていると思う能力をもっているものに対して、
尊敬や憧れを抱くとき、「あ〜あ、ぼく○○だったら良かったのにな〜」と言うのだ。
私はおそらく、その残念そうな口調に反応してしまって、
私は息子を幸せにしようとしているのに、
息子は自分であることに満足していないのだ、と思い込み、
息子を幸せにできてない私という劣等の位置に落ちていたのだろう。
おそろしく馬鹿げたことだけど。
しかし息子は、お友達も虫も動物も、同じように尊敬するのだなあ。



そしてある日、弟のしゅんすけが笑ったりおしゃべりしたりするのを見ながら、
「しゅんすけかわいいねえ!あ〜あ、ぼくしゅんすけだったら良かったのにな〜」
とこうすけが言った。
ああついにこの日が来たかと思った。
しかし私はまったく陰性感情を抱いていなかった。
むしろ、とても嬉しくて幸せな気持ちだった。
私 「どうしてしゅんすけだったら良かったの?」
息子「だってかわいいもん!すごく楽しそう♪」
私 「そうだね、かわいいねえ。しゅんすけはいいねえ。こんな優しいお兄ちゃんがいるもんね♪」
息子「うふふ、そうだね♪」
私 「こうすけにはこんないいお兄ちゃんがいないもんね。
   でもしゅんすけは、かわいい弟のお世話できないのが残念だね。」
息子「ほんとだ〜。それは残念だねえ」
私 「どっちもいいね。でもどっちかなんだよね〜
   ・・・お母さんはかわいい2人が見れていいでしょ!」

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by Inahoadler | 2015-10-08 00:46
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